聴かせて君のその声を 心結ぶ糸を風に乗せて

もうひとつの時間。

 

一日中フェリーに揺られたことも、憧れの地に降り立ったときの高揚も、車窓から見たザ・北海道な風景も、雨雲を前に立ち竦んだことも、太陽を浴びて疲れた夜も、一人歩いたジェットコースター路も、じゃがいもの美味しさに感動したことも、一期一会..でも、確かに互いの人生が交わったあの時間も、最後の最後に出た虹も。


..あの夏わたしを突き動かした衝動も。

ぜーんぶ、ぜんぶ自分。忘れてなかった。ちゃんと体の中を駆け巡っていた。

 

 

わたしの中には、あの夏 胸いっぱいに吸い込んだ北の大地の風が流れている。

 

今こうしている間にも、あの木を風が通り抜けている。

あの草は揺れ、

あの波は今も寄せては返し、

あの蜂は今もどこかで蜜を求めて飛んでいるかもしれない。 

心の片隅にあるもうひとつの時間を意識すると、いつも、すっと心が軽く広く....不思議な気持ちになる。

 

 

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多くの本を読みながら、いつしかひとつのことがどうしようもなく気にかかり始めていた。それはヒグマのことだった。大都会の東京で電車に揺られている時、雑踏の中で人込みにもまれている時、ふっと北海道のヒグマが頭をかすめるのである。ぼくが東京で暮らしている同じ瞬間に、同じ日本でヒグマが日々を生き、呼吸をしている……確実にこの今、どこかの山で、一頭のヒグマが倒木を乗り越えながら力強く進んでいる……そのことがどうにも不思議でならなかった。

 

星野道夫/旅をする木

 

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特に何かあった訳ではないけれど、なんか書き残しておきたくなった今の気持ち。